[ Business Operations ]

導入前:複数銘柄の決算追跡は朝のルーチンワークだった

対象銘柄の決算速報を毎朝自動で収集する仕組みを持つことで、「開示を見に行く」時間がゼロになり、チームの判断が情報収集の上流から動けるようになった。

Author: 森本拓見
#case-study #業務自動化

導入前:複数銘柄の決算追跡は朝のルーチンワークだった

上場企業の決算短信は東証が運営する「TDnet」という開示システムに掲載される。3月決算企業が集中する春は、毎日数十社が決算を発表し、その多くは朝8時台。

八雲では、複数の上場企業を業務対象にしており、それらの決算情報を毎期追いかけている。問題は、発表のタイミングが銘柄によってバラバラだったこと。「決算が出た」と気づくには、毎朝 TDnet のサイトにアクセスし、対象銘柄の名前で検索し、PDF をダウンロードして確認する。銘柄が増えるほど、朝の時間が取られた。

特に困ったのが「見落としリスク」だ。発表予定日と実際の掲載日がずれることもあり、1日遅れて気づくこともある。チームメンバーが複数いても、全員で開示を追うわけにはいかず、。

手作業では「データが揃う前に判断を迫られる」こともあった。ある決算では、主要な数字が PDF パースの過程で転記漏れになり、2日後に修正という事案も起きた。

導入したもの:毎朝、決算速報が自動で蓄積される仕組み

対策は「毎朝5時に、自動で決算速報を集めてスプレッドシートに蓄積する」という仕組みだった。macOS に備わったスケジュール機能を使い、毎朝決まった時刻に「TDnet から最新の決算短信を拾う→スプレッドシートに記録する」という作業を自動実行する。

発表予定日と掲載日のずれに備えて、実行時には直近2日分を遡ってスキャンするロジックが組み込まれている。つまり、金曜朝に木曜・金曜分を取得し、月曜朝には金曜・月曜分を取り直す。すべての開示種別を拾うのではなく「決算短信」だけにフィルタリングして、ノイズを最小化している。

スプレッドシートは8つの項目グループに分かれており、売上高・営業利益・純利益などの主要指標ごとにカラム分けされている。1行が1企業×1期間の単位で、毎年の新しい期間が始まるたびに新しいシートが追加される。

ビフォー/アフター:開示を「見に行く」から「待つ」へ

導入前:

    • 銘柄数が増えるたびに確認時間が増加
  • 発表を見落とすリスク
  • 複数人の確認が重複

導入後:

  • 毎朝5時に自動実行されているため、朝の確認作業がゼロに
  • スプレッドシートを開けば、夜中に発表があった分も含めてすべてのデータが蓄積されている
  • 判断に必要な数字がいつでも揃っている状態

実感として大きいのは「開示を見に行く」という行動がなくなったこと。従来は、判断に必要なデータを自分たちで集め、そこから判断が始まっていた。今は、データが常に待機している状態。意思決定のプロセスが「情報収集」から「データ解釈」に前倒しできるようになった。## 副次効果:自動化の限界も見えてきた

完璧な自動化とはいかず、現在の仕組みにも限界がある。正直に述べると、以下の部分は人手が必要だ。

PDF テキストレイヤーがない書類:一部の企業は、PDF を「画像」で保存している。その場合、スプレッドシートへの自動転記が失敗し、手で数字を入力することになる。この見極めは現在のところ手作業。

非標準フォーマットの企業:大企業ほど標準的なフォーマットで決算を公開するが、中堅企業の中には独特なレイアウトで公開する企業がある。自動パーサの精度がばらつく。

自動実行が止まったときのリスク:スケジュール実行が何らかの理由で止まると、翌日のデータが蓄積されない。通常時は「朝のメール」で実行結果が通知される(成功件数・失敗件数・スキップ件数)。失敗がゼロでない場合だけ詳細を知らせる仕組みになっている。これらは「完全自動化」ではなく「人間の関与を最小化する」というアプローチで運用している。

業界への示唆:小規模チームの情報戦を変える

この仕組みが活躍する場面は、Yakumo の内部に限らない。

複数企業を追跡する投資チームは、銘柄数が多いほど朝の確認負担が大きい。4〜5銘柄であれば手作業でも耐えるが、20銘柄を超えると破綻する。自動化することで、担当者の時間を「判断」に使える。

業務提携やM&A を検討している企業は、候補企業の経営状況を定期的に追う必要がある。決算情報が自動で蓄積されていれば、業績悪化の兆候にいち早く気づける。

少人数の経営管理部門は、複数業界の市場情報を集めながら経営判断をする。データ収集に時間を取られず、分析に時間をかけられるようになると、判断の質が上がる。

重要なのは「テクノロジーが判断を代替する」のではなく、「判断者の時間を返す」こと。朝 TDnet を開く 30 分が消えれば、その分を戦略思考に使える。小規模な組織ほど、この時間差が競争力になる。

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