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同じ書類を毎回「作り直す」非効率

提案書・見積書・請求書の作成が「考える仕事」から「確認する仕事」に変わったことで、一次面談や個別追客に充てる時間が生まれた。

著者: 森本拓見
#case-study #業務自動化

提案書を送るたびに、1件当たり かかっていた時期がある。見積書も同じく。案件が増えると、夜中に書類作成に追われることも珍しくなかった。

私たちが直面していたのは、書類作成という「思考作業」が営業の重要な時間を奪っていたという課題だ。対面面談を重ねたい、クライアントを追客したい——その気力と時間がなくなっていた。

同じ書類を毎回「作り直す」非効率

提案書や見積書を見直してみると気づく。案件名、金額、スケジュール、会社名——ほぼすべてが「所定の位置に決まったデータを埋め込む」という決定的な作業だ。一方、実際に考える部分は、提案文のコピーや契約条件など限られている。にもかかわらず、毎回ゼロから構成を考え、フォントと余白を調整していた。

さらに課題は、書類の見た目にばらつきが出ていたことだ。営業担当者ごと、案件ごとにフォーマットがわずかにズレる。クライアントに届く書類の品質が均一ではない状態が続いていた。

仕組み:テンプレートで「埋め込むだけ」に

八雲が採用したのは、書類をテンプレート化し、データを自動で流し込む仕組みだ。

大事な観点は、この作業が「シンプルで機械的」ということを認識することだ。案件情報(名前、金額、日程)を定義に従って埋め込む、フォーマットをそろえる——これは AI でも、スクリプトでも、きちんと設計すればヒトが毎回考える必要がない。

私たちが設計したのは以下のステップだ:

  1. テンプレートの構造を定義する——提案書ならどこに何を書くか、見た目はどうするか、一度決めたら変わらない部分を固定する
  2. Google Drive 上にテンプレートドキュメントを生成する——定義に従って Drive にテンプレートの正本を作る
  3. 案件ごとにコピーして、データを自動で埋め込む——案件が発生したら、テンプレートをコピーして、案件情報・金額・日程を自動で流し込む

このシンプルな構造により、営業は書類を「作る」のではなく、生成された書類を「確認して送る」という仕事に変わった。

効果:時間とスループットの変化

導入前、提案書の作成に 。月に 件の提案書を送るとすると、それだけで週単位の時間が奪われていた。

見積書と請求書も同じ問題を抱えていた。合わせると、月間で が書類作成に費やされていた。

テンプレート駆動に切り替えた後、提案書1件の作成時間は に短縮された。確認と送信だけなら数分で済む。同じ期間で、提案書は月間 件に増えた。

削減された時間の使い道は明確だ。

営業チームは削減した時間を に充てることができた。

書類作成という「作業」が減った分、対面時間と関係構築に心を使える状態になった。

副次効果:フォーマット統一がクライアント印象を左右する

テンプレート駆動に統一したことで、意外な副次効果が生まれた。書類の見た目が完全に統一されたのだ。

以前は、提案書のフォント、余白、段落間隔が書類ごとにわずかにズレていた。営業担当者による手作業の差異が出ていた。一方、クライアント側から見ると「この会社の提案書は毎回見た目が違う」と感じるかもしれない。

テンプレート駆動にすると、全提案書、全見積書、全請求書が同じ見た目で出力される。企業としての「統一された見た目」がクライアントに届く。実際のところ、書類の統一感はクライアント印象に思った以上に影響する。複数の営業から提案が来ても、同じフォーマットで届くことで、「この会社は体系的だ」という信頼感が生まれる。

また、手戻りが減った。書類フォーマットがズレているという理由での修正指示がなくなった。「金額を修正して再送してほしい」という実質的な修正だけで済むようになった。

落とし穴:テンプレートが増えすぎると管理が重くなる

運用を続けると新たな課題が浮かぶ。テンプレートが増えすぎると、どれを使うべきか、どこに何があるか、管理が複雑になるのだ。

現在、提案書・見積書・請求書のほか、特定クライアント向けの送付状、契約書など、複数のテンプレートが存在する。新しいバリエーションが必要になるたびに、新しいテンプレートを作成したくなる。しかし、1つ増えるごとに管理対象が増える。

そのため、八雲では「小さな違いはテンプレートの中のプレースホルダ(埋め込み位置)で吸収する」という判断をしている。送付文の言い回しが複数あるなら、テンプレートを増やすのではなく、複数のバリエーションを埋め込み項目として定義する。新しいテンプレートを追加する判断は厳密にしている。

また、埋め込み項目の指定漏れは今でも発生する。営業が案件情報を入力する際に、必須項目を埋め忘れることがある。そのため、生成後に「埋まっていない項目がないか」を確認するチェックプロセスを設けた。この確認は「機械的」な作業なので、営業の負担にはならない。

規模が違う企業への応用

この仕組みは、企業規模によって効果の感じ方が異なる。

少人数の営業チーム(3〜5名)の場合、月間で 、このテンプレート駆動化による時間削減が顕著に出る。特に、営業担当者が複数案件を並走させている状況では、書類作成時間の削減がそのまま「営業活動に充てられる時間」に転換される。

一方、営業組織が大規模になると、別の課題が生じる。書類の種類が増え、テンプレート管理が専任職レベルの業務になりうる。その場合、テンプレートの一元管理と更新ルールを組織レベルで決めておく必要がある。

結論:「作る」から「確認する」への転換が営業を解放する

営業書類は、構造がしっかり決まれば「考える仕事」ではなく「確認する仕事」に変わる。その転換により、営業の時間と気力が個別面談、既存クライアントとの関係構築に向く。

小さな工夫に見えるかもしれないが、営業チームの活動量は想像以上に変わる。書類作成という「惰性的な作業」から解放されたとき、営業はようやく営業本来の仕事——顧客との関係づくり——に集中できるようになるのだ。

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